認知科学に基づいた「認知機能改善プログラム」

コロナ禍を経験し、私たちは農福連携の新たな可能性を発見しました。

全国の当事者と支援者との出会いを通じて、新たな課題も浮かび上がるなか、『農福リハビリ』による認知機能の改善効果を検証し、新たな「認知機能改善プログラム」を開発しました。

一般的に認知機能改善にありがちな「脳トレ」や運動ではない、全く新たな手法として、福祉課題の本質的な課題解決のために開発されたプログラムです。

この記事でお伝えすること
  • 「認知機能改善プログラム」について
  • 認知科学を基にした「認知機能改善プログラム」のメカニズム
  • 当事者支援で、もっとも重要なこと
  • 「認知機能改善プログラム」は、ひとりひとりが、あなたらしく生ききるためのプログラム

「認知機能改善プログラム」とは何か

この認知機能改善プログラムは、『農福リハビリ』の検証と改善の過程から生まれたものです。

多様な背景を持つ当事者の方々の苦しみに対応し、さらに介護者と支援者の抱えるストレスを軽減するために設計されました。

認知科学に基づいて構築された当事者向けの『農福リハビリ』の理論を応用し、介護者、家族、そして支援者のために新たに構築したプログラムです。

「農福リハビリ」から「認知機能改善プログラム」に至るまで

それでは、どのようにして「認知機能改善プログラム」が構築されたのかを解説してゆきます。

脳の構造、仕組みを学ぶ

認知症となった母の頭の中で、何が起こっているのだろう❓」

母親の認知症介護が始まると、私は脳の構造やそのメカニズム、そして認知症の症状と脳内の変化について学び始めました。

認知機能改善のために得た洞察のひとつは、「脳のしくみ」を学び、認知症との関係を理解することの重要性でした。

もしネガティブな思考が認知機能を低下させるのであれば、ポジティブな思考に導くことで、認知機能は向上するのではないか?

この小さな閃きが、農福連携活動のきっかけとなり、『農の医療的・福祉的活用』のスタートでした。

当事者のニーズを掴む

『農福リハビリ』で目指したのは、当事者自身が主体的に取り組み心身機能が回復することです。

私たちは、脳の仕組みから導き出した理論と手法を母親の大好きな菜園作業と結びつけ、『農福リハビリ』を構築しました。
そして、その結果から当事者の「やりたいこと(心からのぞむこと)」を尊重し、それを実現させることで、認知機能が変化することを学びました。

当事者支援で重要なのは、当事者自身が「のぞんでいること、やりたいこと」をしっかりと理解し、把握することです。

当事者の意志や要望を無視した一方的な介入では、善意からであっても支援者の都合による強制になりかねないのです。

成功体験を繰り返し、自尊感情が向上する

私は、真の自立支援とは、「最期まで、その人らしく生きるための選択と行動を支えること」と捉えています。

『農福リハビリ』では、当事者の「やりたいこと」をしっかりと把握し、当事者自身で「目的や目標」の設定をしてゆきます。

そして、心理的な抵抗を感じにくい環境(農福連携農園)で、小さな「目的や目標」を繰り返し達成することで、自尊感情を向上させることが出来ることを学びました。
つまり、ひとは自分の心の声に基づいて選択し、行動する時にこそ、自己肯定感は高まって行くのです。

目的や目標は、他者ではなく自分自信が決めることです。
周囲との比較や一般的な意見は関係ありませんし、気にする必要もありません。

何故なら、改善や予防に必要なもっとも重要な要素は、当事者自身の心の中に存在し、当事者自身にしか分からないことなのです。

当事者の思いを支援する「認知機能改善プログラム」

このような『農福リハビリ』の取り組みで、当事者の思考や信念に焦点を当て、実施したプログラムは、想定を超える成果が生まれました。
これまでの結果から、険しい表情をした当事者が笑顔になり、精神状態も穏やかになることは、もはや珍しくありません。
そして、近年の研究では、思考が心身に与える影響の因果関係が科学的に解明されつつあります。

このプログラムを一言で表現するなら、『認知症当事者の「信念」を理解し、それを支援すること』と言えるでしょう。

当協議会の三山吉夫医師が語る「症状ではなく、人生を見なさい。」の言葉が指し示す意味の重要さが証明されました。
現在の症状ではなく、症状に至るまでの過程に何があったのかを知ることが重要です。

現在も『農福リハビリ』は、脳機能、認知科学、精神神経免疫学などの長年の研究成果と最先端の理論・技術を吸収し、アップデートを続けています。

このような『農福リハビリ』のコアとなる理論と現場で得た様々なノウハウを応用し、『認知機能改善プログラム』は構築されました。

「脳トレ」や体操じゃない、新たな認知機能改善プログラム

「認知機能改善プログラム」は、上記のとおり『農福リハビリ』の更新で得た理論や技術を応用し、構築されたプログラムです。

私たちは、本質的な福祉課題の解決のために、このプログラムの普及を目指しています。

様々な背景を抱える当事者とその家族、介護職員などの心理的・精神的な苦痛を軽減すること、
さらには支援するNPO法人やボランティア団体など、明確なストレス軽減のソリューションを持たない方々に提供して行きます。

私たちが追求したことは、「認知症の予防のため、改善するために、何をするのか」ではなく、
「最期まであなたらしく、生ききるために、何が必要か」に焦点を当てて、それを実現することが最大の効果を生むということです。

学習しやすいように、専門用語を省略し、図解により説明しています。
脳機能のしくみに沿って構築されているので、もちろんどなたでも活用出来ます。
また一度、習得すると生涯、活用することの出来る知識と技術のパッケージ・プログラムになっています。

私たちは、プログラムの普及により「当事者とその家族の苦痛と苦悩を緩和すること」を達成し、「思考格差の是正された共生社会の実現」を目指します。